次世代産業用オープンネットワーク「CC-Link IE TSN」と「e-F@ctory」の活用で工場のスマート化をさらに促進


CC-Link IE TSNネットワークに対応したFA製品ラインアップの強化
三菱電機では、次世代産業用オープンネットワーク「CC-Link IE TSN※」に対応したシーケンサー、サーボアンプ、ロボット、表示器、インバータ、CNCなどのFA製品、計102機種を5月7日から順次発売しています。次世代スマート工場の実現に不可欠な制御通信と情報通信の融合を1つのネットワークで実現し、FA統合ソリューション「e-F@ctory」のさらなる強化を図ります。
※2018年11月21日に一般社団法人 CC-Link協会から仕様が公開されたEthernetベースの産業用ネットワーク
CC-Link IE TSN開発の背景
TSN技術とスマート工場
スマート工場を実現するためには、生産現場のデータをリアルタイムに収集し、そのデータをエッジコンピューティングで一次処理した上でITシステムへシームレスに送ることが重要となります。生産現場のデータを活用するには、高速・安定した制御通信やITシステムへの大容量の情報伝送が可能なネットワークが欠かせません。すなわち、生産現場における産業用ネットワークとITシステムにおけるネットワークの融合が重要です。
現在さまざまな産業用ネットワークが使用されていますが、スイッチや配線などネットワークを構成する要素でも、リアルタイム性を確保するために独自仕様のものを使う必要があり、IT用ネットワークや他の産業用ネットワークとの間で回線やデバイスの共有ができないといった課題がありました。また、スマート工場実現のためには、装置や設備の高性能化・高機能化による生産性向上が求められており、高度なモーション制御用ネットワークが必要とされます。
これらの要求に応えるのがCC-Link IE TSNです。従来のCC-Link IEの特長を継承しつつ、時分割でリアルタイム性を実現するTSN技術を採用し、同一幹線上で複数の異なるネットワークの混在を可能とします。さらに、高速・高精度なモーション制御を実現します。
技術的な仕組みと他オープン技術の活用
Ethernet標準プロトコルと制御・情報通信の混在
TSNは、複数の国際標準規格で構成されており、主なものに時刻同期方式を規定したIEEE802.1AS、時分割方式を規定したIEEE802.1Qbvがあります。これらの規格を組み合わせることで、一定時間内での伝送を保証する定時性や異なる通信プロトコルとの混在が実現可能となります。
通信方式、プロファイル技術の拡充、診断機能
CC-Link IEではトークンパッシング方式を用いていますが、CC-Link IE TSNは時分割方式を採用しており、ネットワーク内で同期している時刻を活用し、決められた時刻で出力と入力の通信フレームを双方向に同時に送信することで、ネットワーク全体のサイクリックデータを更新する時間を短縮させます。時分割方式とTSN技術を組み合わせることで、制御通信と情報通信の混在が可能となります。
CC-Link協会は、CC-Linkファミリー対応機器の立上げ、運用・保守を簡単に実現するためCSP+(コントロール&コミュニケーションシステムプロファイル)を定義しており、CC-Link IE TSNではCSP+にて、CANopenデバイスプロファイルとの親和性を強化しました。例えば、駆動機器で国際規格であるIEC61800-7(CiA402)を使用した通信設定が可能です。
汎用のネットワーク診断機能の活用
CC-Link IE TSNネットワーク機器の診断には、IT系のネットワーク監視に広く使われるSNMP(Simple Network Management Protocol)が使用可能です。CC-Link IE TSN構成情報、統計情報などが拡張MIB(Management Information Base)として定義されており、汎用のSNMP対応ツールでネットワーク診断が実現可能となります。
ネットワークの特長
制御通信と情報通信の融合
CC-Link IE TSNは、機器制御のサイクリック通信に高い優先度を与え、情報通信よりも優先的に帯域を割り当てることで、リアルタイムなサイクリック通信で機器を制御しながら、ITシステムと情報をやり取りするネットワーク環境を簡単に構築できます。また、情報通信との混在の特長を活用し、生産現場にUDPやTCPを用いて通信を行う機器を1つのネットワークに接続し、例えばビジョンセンサーや監視カメラなどのデータを高精度で蓄積することで監視/分析/解析などに活用することも可能です。
システムの早期立ち上げや高度な予防保全
SNMPに対応することで、従来は個別のツールを必要としていた機器の状態収集を、汎用のSNMP監視ツールにより、CC-Link IE TSNに対応した機器のみでなく、スイッチやルータなどIP通信に対応した機器もまとめて、収集・分析可能となります。これにより、システム立ち上げ時や、システム運用・メンテナンス時の機器動作状態の確認にかかる工数を削減できます。
TSNで規定された時刻同期プロトコルにより、CC-Link IE TSNに対応した機器は、機器間の時刻のズレを補正し、高精度な時刻同期を行っています。マスタやスレーブがそれぞれ持つ時刻情報をマイクロ秒単位で合わせているため、例えばネットワークに異常が発生した時の動作ログ解析時に、異常に至るまでの事象を正確な時系列で追えるようになります。これにより、トラブルの原因究明と早期復旧を行うことができます。
さらには、ITシステムへ生産現場の情報と正確な時刻情報を紐づけて提供することが可能となり、AIを活用したデータ解析アプリケーションによる予知保全などで、より一層の精度向上が期待できます。
駆動制御の性能を最大化してタクトタイム短縮
CC-Link IE TSNは、時分割方式により、31.25μs以下という高速な通信性能を実現しました。従来のネットワークで運用していたシステム規模と比較して、ライン増設などで制御に必要なサーボアンプの軸数が増えても、全体のタクトタイムへの影響を最小限に抑えられます。加えて、CC-Link IE TSNでは、性能が異なる機器をそれぞれの通信周期で組み合わせて使用することが可能になるため、サーボアンプのような高性能の通信周期を必要とする機器の性能を維持したまま、リモートI/O等の高速な通信周期を必要としない機器を接続するなどが可能になります。
対応製品の充実化
従来のCC-Link IEは、1Gbpsの広帯域を有効に使用するため、機器開発ベンダは、マスタ機器とスレーブ機器いずれも専用ASICかFPGAを用いて対応製品を開発(ハードウェア実装)する必要がありました。CC-Link IE TSNはハードウェア実装のみならず、ソフトウェアでも実装可能であり、汎用のEthernetチップにソフトウェアのプロトコルスタックで実現する方法が、マスタ機器、スレーブ機器ともに適用できます。通信速度も1Gbpsに加えて、100Mbpsにも対応できます。開発障壁を低くすることで、結果的に対応機器の充実化という形でユーザーの選択肢を広げます。
CC-Link IE TSNの活用とe-F@ctory
CC-Link IE TSNに対応した当社FA機器
CC-Link IE TSNに対応した、当社のシーケンサーMELSEC iQ-Rシリーズ、ACサーボMELSERVO-J5シリーズ、インバータFREQROL-A800シリーズ、産業用ロボットMELFA FRシリーズなどを代表機種とする新製品の発売を予定しています。柔軟なIoTシステムの構築、超高速、超高精度通信による生産性・品質の向上、エンジニアリングツールによるシステム利便性の向上を実現できることが特長です。
FA統合ソリューションe-F@ctoryの強化
当社は、CC-Link IE TSN対応の各種FA機器を発売し、製造用装置の高速化・高精度化による生産性の向上を図ります。そして、生産現場のリアルタイムデータの収集と一次処理を行うエッジコンピューティングと上位ITシステムとのデータ連携を含め、工場内のすべての機器を一本のEthernetケーブルで接続し、生産現場の全てのデータを一元管理できるネットワーク基盤を提供することでFA統合ソリューションe-F@ctoryの強化を図り、製造業の競争力強化に貢献します。